パルディ天球図 より、こと座 Ignace Gaston Pardies, Wikimedia Commons

近隣の星たち

過去未来の星空を調べるにあたって、一番変化が大きそうなのが、太陽系の近くにある星たちです。近ければ、明るさの変化も、天球上の移動量も大きくなるでしょう。

近くにあって明るく見えるのは、ケンタウルス座アルファやシリウスヴェガアルクトゥールスといった星たち。21個の1等星のうち、半分が100光年以内にあります。この星たちは、数十万年のオーダーで、明るさも位置も大きく変化します。

過去、未来では明るく見える星、と考えた場合、今はあまり明るく見えなくても、太陽系に近い星たちは、まず調べるべきでしょう。

逆に、遠くにあっても絶対等級が明るいので明るく見える、デネブリゲルベテルギウスアンタレスといった星たちは、数十万年の時が流れても、明るさも位置もあまり変わりません。1 これらの星は、ほかの星たちの移動を調べる道標となりそうです。

太陽近傍星カタログ

太陽系に近い恒星のカタログがあります。

Preliminary Version of the Third Catalogue of Nearby Stars (Gliese W., Jahreiss H.)

Gliese は、ドイツの天文学者で、FK4、FK5星表の編纂に携わり、近隣星の研究で有名な人。このカタログは、太陽から25パーセク、約80光年以内の恒星3800個あまりをまとめたものです。発表が1991年ですから、決して新しいものではありませんが、過去未来の星の位置を計算するのに必要な、視差と視線速度と固有運動がそろっている暗い星のカタログは、なかなかありません。

このカタログのデータを使って、100万年前から100万年後までの200万年間に太陽系に接近、肉眼で見えるほど明るくなる星、という計算をしてみましたが、結果は数個しかなく、その星のデータは、Hipparcos星表にもある、ということが確認できました。肉眼で見える星、という基準で考えると、近傍星カタログのデータを使う必要はないようです。

夜空の星は、明るい星

今回計算してみて改めて感じたことですが、夜空に輝いている星のほとんどは、太陽よりもずっと明るい。太陽の絶対等級は4.83、アルクトゥールスと同じ距離、37光年かなたにあれば太陽は5等級、肉眼で見ることはできますが目立つ星とは絶対に言えません。アルクトゥールスはその距離で0等級です。

けれども、星座を作る星のほとんどは、この星よりも、もっと明るいのです。

逆に、太陽系の近くにもある、赤色矮星とよばれる絶対等級が10等級というような暗い星たちは、太陽系に近づいても目立つ星にはなりません。1パーセク=3光年ちょっとまで来ても5等級。少しでも離れてしまえば、肉眼で見える星にもなれないのです。

太陽や赤色矮星のように、宇宙の大多数の星、ありふれたごく普通の星では星座を作る星にはなれない、ごく一部の選ばれた星が「スター」になる。星たちの世界も、人間社会と似ているようです。

  1. ベテルギウスやアンタレスは、超新星爆発で消えてしまうかもしれませんが