パルディ天球図 より、こと座 Ignace Gaston Pardies, Wikimedia Commons

等星と等級

前のページで、星の明るさについて紹介しました。その中で、「等星」と「等級」という2つの言葉を使っています。どちらも星の明るさを示す言葉なのに、本などを見ると、同じ星でも微妙に数字が違っていたりします。

私が星に興味を持って、本を読み始めた小学生のころ。本によって、レグルスは「1等星」だったり「1.4等級」だったり、ベガは「1等星」なのに「0.0等級」となっていたり、数字の違いに混乱したものです。

天文学は、その発展によって数字がバンバン変わってきましたから1、どっちかが新しい情報なのかな? 小数点がついてる方が正確なのかな? などと考えていました。

この二つの言葉の意味の違いを理解したのは、だいぶ大きくなってから。「等星」と「等級」の森に迷い込んだ方のために、まとめておきましょう。

「等星」

「等星」と「等級」 先に作られたのは、等星です。

前のページで、ヒッパルコスが、明るい星たちを1等星、なんとか見える、かすかな星たちを6等星と分類した、とお話しました。

「ヒッパルコスは星の明るさを測った」のですが、なにしろ「目」で観測しましたから、微妙な明るさの違いまでは数字で記録できなかったのでしょう2。同じくらいの明るさの星をまとめて、種類分け、「分類」したのです。

「等星」は、同じくらいの明るさの星たちが入っている「箱の名前」と、考えるとよいでしょうか。イメージとしては、服や飲み物、くだものなどのサイズを表す、S、M、Lなどと同じ。「明るさ」そのもの、ではないのです。

図1 等星の箱

図1 等星の箱

「ベテルギウスは1等星です」と言ったとき、「ベテルギウスは、1等星の箱の中に入っている」ということ。そう考えると、「1.2等星」は、厳密には正しくない。「1.2等級」とするべきです。また、ヒッパルコスの作った箱は、1等星から6等星までの6個。ですから、「7等星」とか、「0等星」は、ヒッパルコスの分類では存在しないもの。ですが、「等級」を使って拡張した、と考えればよいでしょうか。

「等級」

一方の等級は「数直線」のイメージ。星そのものの明るさをズバリと示す値です。

実際の星を観察すると、「1等星」という箱の中でも、明るさは違う、ということに気が付きます。

図2 冬の大三角 夏の大三角

図2 冬の大三角 夏の大三角

夏の大三角、冬の大三角の星たちは、「等星」では、すべて1等星。でも、夏の大三角の、ベガとデネブとアルタイルでは、ベガが一番明るく、デネブが一番暗い。現代の観測では、違いは3倍以上。冬の大三角の、ベテルギウス、シリウス、プロキオンでは、シリウスが一番明るく、プロキオンの5倍以上。

それらを同じ「1等星」というグループにしておく、というのは、ちょっと乱暴でしょうか。

逆側の暗い方、6等星にも同じことが言えて、望遠鏡での観測が始まると、目では見えない、6等星よりもずっと暗い星が、たくさん発見されてきます。

こうして、ヒッパルコスの「等星」の箱からはみ出す星がたくさん出てきたこと、また、星の明るさを正確に観測できるようになったこと、などから、「分類」ではなく、一つ一つの星の「明るさ」を、直接表現する方法が、必要となってきます。

図3 等級の線と、等星の箱

図3 等級の線と、等星の箱

そこで、詳しく観測した星の明るさと、ヒッパルコスの「等星」という箱の分類とを調べてみると、1等星と6等星では、明るさがだいたい100倍違う、ということが分かりました3。ならば「1等星と6等星、5等星分の明るさの違いが100倍になる」ように決めたらいんじゃね? ということで「等級」が定義されたのです。

「等級」のものさしでは、1等級の明るさの違いは、約2.5倍。ヒッパルコスの「等星」は、この2.5倍の明るさの違いを基準として、分類していたわけです。逆に言えば、「等星」一つの箱の中には、2.5倍までの明るさの違う星が入っている、ということです。

等星と等級

この文章を書くために、改めていろいろ調べてみましたが、実は「等星」という定義は、ヒッパルコスから変わっていない、もしくは明確にされていないようです。日本天文学会が作成している「天文学辞典」には、「等級」はあっても「等星」という項目はありません。日本天文学会としては、「等星」は天文学用語ではない、ということでしょうか。

プラネタリウムや書籍などでの「全天には21個の1等星があります」は、ヒッパルコスの分類の「等星」の意味で使われています。一方で、「0等星」とか「7等星」という表現も見受けられます。この場合は「等級」を小数点以下第1位で四捨五入したもの、と考えるといいでしょうか4

英語では、等星も等級も、どちらもMagnitude、地震情報などで使われる、大きさを表す「マグニチュード」という言葉を使っています。ただし、「等星」の場合は序数を使って、「1等星=1st(first) magnitude、2等星=2nd(second) magnitude、・・・」と表します。乗り物の席の種類で「ファーストクラス」などと言いますね。そう考えると「等星」=「箱」というイメージがしやすいでしょうか。

以上と以下

ここからは少し脱線。

「等星」を使った表現で困るのは、「以上」と「以下」。例えば、4等星からの暗い星を「4等星以下」とするか「4等星以上」とするか。

明るさに注目すれば「以下」がいいのでしょうが、「等星」を使う場合は「以上」のほうが、「暗い星」という本来の意味を表します。

そもそも、分類されたものを再分類するようなことをするのが悪い、と言われればその通りですが・・・。

図4 4等星以下? 以上?

図4 4等星以下? 以上?

例えば都会用の、星の少ない星図を作る時、「空が明るくて見えないけれど、星座をつなぐためには必要な5等星」というものが存在します。

その凡例に、4等星と書くと間違いだし、5等星をいくつか入れたら、ほかの5等星も描かないと変だし、でもそんなにたくさん星を描くと、街中でもたくさんの星が見えると思う人が出てくるし5

なら「4等星より暗い星は、みんな4等星と同じ大きさで描いて、4等星以下、とすればいいんじゃね?」「いや、数字が大きいほうが暗いんだから、4等星以上だろ?」と、なるのです。

皆さんは、どちらのほうが「しっくりくる」でしょうか。

  1. アンドロメダ銀河までの距離が、80万光年から230万光年、さらに2023年現在では250万光年になったり、宇宙の年齢が180億年から138億年になったり
  2. 目で分類、と言っても、その後の機械を使った観測で分類しなおす必要がないほど、正確に分類しているのです。すごいことです
  3. 観測結果の数字が、科学的に扱えるほど、ヒッパルコスの観測は正確だったのです。すごいことです
  4. 個人的には、このあたりから「等級」と「等星」の混乱が始まっているように思います
  5. いや、本当にそういう人はいます。しかも結構たくさん。イジリではなくまじめに「もらった星図に描いてある星が見えないんだけど」という問い合わせが来るのです。同じ理由で、都会用の星図には、天の川が描かれていないものもあります