距離を測る
最近は、オートフォーカスでないカメラ、というものがずいぶん少なくなりました。
マニュアルフォーカスのカメラは、ファインダーをのぞきながらピントあわせのリング(距離環)を回してピントを合わせます。ピントあわせに時間がかかるので、動くものの写真を撮るのは難しい。しかもフィルムのカメラだと、現像するまでピンボケかも分からないし。本当に便利になったものです。
そんな便利なオートフォーカスカメラですが、どうやってピントを合わせているか、ご存知でしょうか? 方法は2種類あるそうで、赤外線や超音波で距離を測るものと、実際にレンズを通した画像を処理してピントを合わせるもの(シグマ光機株式会社 光学屋さんのまめ知識「オートフォーカス」) どちらの方法も、そしてマニュアルフォーカスでも「ピントを合わせる」というのは、被写体までの距離を測ることなのです。
カメラは、凸レンズの「実像」を利用した機械です。凸レンズの代表は虫眼鏡。虫眼鏡を使って、物を拡大して見た経験は皆さんお持ちのはず。虫眼鏡で遠くを見ると風景がさかさまに見える、という発見をした方もいることでしょう。それが、凸レンズの作る「像」
像には2種類あって、カメラで利用している「実像」は、被写体がレンズの焦点距離よりも遠いところにあるときにできる像、「虚像」は、被写体がレンズの焦点距離よりも近いときにできる像のことです。実像はさかさまに小さく見え、虚像はそのまま大きく見えますから、虫眼鏡で物を拡大して見るのは虚像を見ているのです。
写真の「ピントが合っている」というのは、被写体のある1点から出た光が、レンズを通って屈折し、ふたたび1点に集まっている状態のことです。レンズから見える範囲のあらゆる1点から出た光が、レンズを通っても、像の対応する1点に集まるので、はっきり見えるのです。顔の場合、頭のてっぺんから出た光は頭のてっぺんの像に、鼻から出た光は鼻の像に、あごから出た光はあごの像に、ぴったりと集まったとき、はっきりした像が見えます。鼻の光が1点に集まらないと、鼻の辺りに広がってしまい、ぼおっとした像になる、それがピンボケというわけです。
その、実像がはっきりできる場所に、フィルムや受光部品をおくと、ピントが合った写真が取れます。光学の研究から、これは計算で求めることができ、
という関係があります(正確には、\(a\)と\(a’\)の「レンズ」というのは誤りで、前方主点、後方主点としなければなりません。 詳しくは、新版屈折望遠鏡光学入門 P80)
カメラの場合は、レンズの焦点距離は決まっていますし、被写体までの距離\(a\)も変えるのが難しいことも多いでしょう。すると変えられるのは、実像のできる距離\(a’\)だけです。なので、カメラは被写体までの距離\(a\)を測って、実像のできる距離\(a’\)を変える、つまりはレンズの位置を変えて、ピントを合わせています。オートフォーカスカメラは赤外線や超音波を使って距離を測り、マニュアルのカメラは、感覚的にだいたいの距離を決めるか、距離計というものをつかって被写体までの距離を測るかするわけです。
ここまで光学の話を進めておいてなんですが、実は、ここからのページの話にレンズの性質は一切関係がなく、物差しでは測れない、はるか彼方までの距離の求め方の話をしていこうと思っています。