星の明るさ
星には、いろいろな明るさがあります。明るい星、暗い星、かすかな星。
はるかかなたにある星から届くものは、光しかありません。天文学者たちは、星の光から、いろいろな情報を引き出しています。星の光について調べるとして、いちばん分かりやすい違いは明るさでしょうか。
星を明るさで分類し、記録に残したのは古代ギリシャの天文学者ヒッパルコス。明るい星からかすかな星まで、1等星から6等星と数字で表しました。ヒッパルコスの研究はアルマゲストで紹介されましたので、星の明るさについてもこの等級表示がスタンダードとなり、結局、現在でも大枠として使われています。
19世紀になり、星の明るさが正確に計測できるようになると、1等星と6等星の明るさは、ほぼ100倍違うことがわかりました。そこで、イギリスの天文学者ポグソンは、1856年に星の等級について「1等星と6等星、5等星分の明るさの違いが100倍になる」よう定義しました。それが、現在も用いられている「等級」です。
ここで注意しないといけないのは、5等星で100倍違うのですから、1等級の差は、100を5で割って20倍違う、というわけではない、ということです。20+20+20+20+20=100、としてはいけません。100「倍」ということですから、足し算ではなく掛け算で計算しなければなりません。同じ数字を5回掛け算して100になるのは、2.512・・・、という数字。1等級の明るさの違いは、2.512倍、普段は2.5倍違う、などとあらわしています。
ポグソンの式
ポグソンの定義を数式で表すと、
\(\eqref{no1}\)と\(\eqref{no2}\)、形が違いますがどちらも同じ式。明るさの比から等級の差を求める式と、等級の差から明るさの比を求める式です。
たとえば、1等級違う星の明るさは、\(\eqref{no2}\)式を使って、
ということで、上で示したとおりの約2.512倍と出ました。\(10 ^ {0.4}\)の計算、関数電卓だと、\(x ^ y\)というボタンがありますから、それで求められますし、Excelでは、powerという関数で求めることができます。
逆に、明るさが100倍違う星の等級の差は、\(\eqref{no1}\)式を使って、
ということで、こちらも上で示したとおり、5等級の差と求めることができました。\(log(100)\)の計算、関数電卓だと、\(log\)で求められますが、底が10のlogですから、電卓を使うまもなく2と分かります。
さて、このように定義されたことで、それまでは明るさのグループ分けだった等級が、明るさを正確に示すものになりました。ヒッパルコスは、同じくらいの明るさの星たちを「1等星」から「6等星」まで、6つのグループに分けたわけですが、ポグソンは星の明るさから「1.25等級」や「5.75等級」のように、等級を定量的に求めることを可能にしたのです。そしてその拡張として、それまでは「1等星」としてまとめたグループの中でも1等星よりも明るい星の等級、肉眼では見えない6等星より暗い星の等級も表すことを可能にしました。ポグソンは、とても重要な仕事をしたのです。
絶対等級と見かけの等級
星の明るさを等級で表すことを調べてきましたが、ここで根本的な問題「星の明るさはなぜ違うのか」について、考えてみます。
仮説として、「星は本当はみんな同じ明るさで、それぞれの距離が違うから」というものと、「星までの距離は一定で~天球に張り付いているように~星そのものの明るさが違うのだ」という、2つのアイデアが出てきます。今だからこそ、星までの距離はいろいろ、星の明るさもいろいろ、ふたつの要素が影響しているということが分かっていますが、天動説のころは、星は恒星天、天球に貼りついていると考えましたから、星そのものの明るさが違う、と考えたことでしょう。星までの距離が観測できるようになるまで、星の明るさの違いがなぜあるのか、ということも、ただしい答えを出すことができなかったわけです。
距離も明るさも違う星たち、その本当の明るさ、星全体からある決めた時間内にどれくらいのエネルギーを放出しているか、を比較したいとしたら、どうしたらよいでしょうか。答に影響する2つの要素の片方を比較するので、比較対象でない要素、この場合は距離を一定にして、そこでの明るさを比べるしかありません。
1922年、国際天文学連合は、星の明るさを比較するための基準距離を10パーセクにする、と決定しました1。パーセクは、年周視差が1秒角になる距離、約3.26光年。ですから、明るさを比較する距離は32.6光年。その距離での明るさを「絶対等級」と呼びます。32.6光年先に「天球」を作って、みんな同じ場所で光っているとして、その明るさを比べようということです。
絶対等級に対して、私たちが普段見ている星の明るさは「見かけの等級」と呼びます。
地球に生命を育んでいる太陽、この偉大な星の絶対等級は、4.83。お世辞にも明るい星、とはいえません。アルクトゥールスが36光年で0等級に見えますから、それよりもずっと暗いというのが分かります。でも、その適度な明るさのおかげで、私たちは地球で暮らすことができているわけです。明るければよい、というものでもありません。
絶対等級の計算式
さて、その絶対等級ですが、見かけの等級と星までの距離が分かれば、計算で求めることができます。
また、logが出てきました。logだのsinだのが出てくると嫌われてしまいがちですが、今ではWindowsについてくる「電卓」でも計算できますから、そんなに恐ろしげに考えることはありません。私も昔は対数表を引いたり計算尺で求めたり・・・、と、さすがにそこまで遡りませんが、関数電卓でポチポチ計算したものです。
注意点としては、距離の単位は「光年」ではなく「パーセク」です。これを間違えると距離が3.26倍になるので、出てくる絶対等級が明るくなってしまいます。見かけの等級が同じなら、遠い星ほど明るくないといけません。
もっとも、慣れると感覚的に変な数値だな、と、間違いに気づくので大丈夫です。
太陽の見かけの等級 \(= -26.75\)
太陽までの距離[パーセク] \(= 0.000004848 = 4.848 \times 10 ^{-6}\)
太陽の絶対等級 \(= -26.75 + 5 - log( 4.848 \times 10^{-6} ) = 4.82 \)
逆に、絶対等級から見かけの等級を求めるには、項を入れ替えて、
で、よいことになります。
シリウスの見かけの等級 \( = -1.44\)(これを求める)
シリウスまでの距離[パーセク] \( = 8.6[光年] \div 3.26[光年単位の1パーセク] = 2.64 \)
シリウスの絶対等級 \( = 1.45\)
シリウスの見かけの等級 \(= 1.45 - 5 + 5 log( 2.64 ) = -1.44 \)
シリウスの絶対等級自体、計算で求めた値ですから一致して当たり前ですが、正解が出ました。
星の明るさから分かること
はるかかなたの星から地球に届くもの。それは、光しかありません。星を研究する、それは、星から届いた光のあらゆることを研究する、ということでしょうか。
今、調べてきた星の明るさ、等級、絶対等級からも、恒星のいろいろなことが分かります。
星までの距離
絶対等級を求めるときには、その星までの距離が必要になります。逆に言えば、見かけの等級と、絶対等級が分かれば、その星までの距離が計算できるということ。この方法は、年周視差で直接求めることができない星や銀河までの距離を知る上で、とても重要な手段となっています。
この方法で、距離が求められた天体として有名なのは「アンドロメダ銀河」 ハッブル宇宙望遠鏡にその名がついている、アメリカの天文学者ハッブルは、アンドロメダ銀河の中に「ケフェイド」と呼ばれる変光星を20個以上発見しました。ケフェイド型変光星は、規則正しく変光する周期と、平均の明るさに関係があることで知られ、ケフェイドの変光周期を観測することで、その星の明るさがわかります。
アンドロメダ銀河のケフェイドの変光周期からその星の絶対等級が分かり、観測した見かけの等級との差で、アンドロメダ銀河まで、どれくらいの距離なのか、が分かったのです。ハッブルは、その目的のためにケフェイドを探していたのです。
同じように、超新星も最大光度後の減光の変化のようすと明るさに関係があり、絶対等級を求めることができ、そこから距離も知ることができます。
星の直径、質量
恒星は遠くにあるために、大きな望遠鏡を使っても、月や惑星のように丸く見ることはできません。また、星がどれくらい重いのか、その質量が知りたくても、体重計に乗せるわけにはいきませんから、量りようがありませんが、星の直径や質量を求めるのに、星の明るさを用いる方法もあります。
星の明るさとその質量、また、その直径には一定の関係があり、星の明るさからその質量を、星の明るさとその温度から星の直径を求めることができるのです。
これは、逆に言うと、星は質量が決まれば、その大きさや明るさなどが決まり、星の内部構造で決まる大きさや明るさが質量の違いだけで決まるということは、どの星も内部構造は似ていること、星が作られている物質もほぼ同じもの、ということまで分かります。
手の届かない星の、その明るさからだけでも、さまざまな性質が分かっていくのです。
[恒星の世界 P12 P17 天体物理学入門 P55-56 P228-230 P233-234]- ↩ENCYCLOPEDIA OF STARS P54