パルディ天球図 より、こと座 Ignace Gaston Pardies, Wikimedia Commons

惑星の大きさ比べ

星空観察会などで、実際の天体を望遠鏡で見てもらっての反応は、「すごーい」と素直に感動するか、「なーんだ、こんなもんか」と落胆するか、だいたいこの二つに大別できます。

図1 月に罪はないけれど・・・

図1 月に罪はないけれど・・・

もちろん、面白いもの、ユニークなもの、本当に素直に感動してもらえることもたくさんありますし、そんなときは私自身も、始めて望遠鏡で天体を見たときの感動がよみがえり、一緒に大騒ぎをしてしまいます。これがあるので、この仕事はやめられません(笑)

落胆の要因を冷静に分析すると---なんてえらそうなものではありませんが---やはり皆さん、本やテレビ、インターネットなどで、探査機の撮った惑星、大口径の望遠鏡で何時間も露出した見事なアンドロメダ銀河、オリオン星雲などの写真を見慣れているからでしょう。「なーんだ」の後には「もっとよく見えるのかと思った」という言葉が続きます。

一方、感動した、という中にも、「テレビで見たとおりだ!」とか「写真みたい!」という、なんだかちょっと変な感想もあり、マスコミの恐ろしさを肌で感じたりします(笑)

特に、月を見た後に土星など見せると、「輪が見えるけど小さーい! 土星は月よりも小さいの?」などと言われたりします。惑星は月よりもずっと大きくて、でも遠くにあるから、倍率あげても小さいままなんですよ、といっても、なかなか納得してもらえません。

「火星が6万年ぶりに大接近!」と騒がれたときも、天文マニアは「大きいなあ」と感じたものですが、普通の人にはまったく物足りない大きさだったようです。

図2 こんな土星と比較されたら・・・<br/>写真:NASA/JPL-Caltech

図2 こんな土星と比較されたら・・・
写真:NASA/JPL-Caltech

見ている天体の実際の大きさ、というのは、確かにきちんと理解するのは難しいと思います。

私も数字で、たとえば木星は地球の11倍だとか、太陽は地球の110倍だとか、覚えてはいますが、実際にそれがどういうことなのか、きちんと理解できているかといえば怪しいものです。

そこで、よく引き合いに出すのが、もし惑星を月の距離まで引っ張ってきたら、どれくらいの大きさに見えるだろう? というものです。

ここでは、惑星と月との大きさを比較してみようと思います。

実際に月を見ながら惑星の大きさを想像すると、結構なインパクトがありますよ。

大きさ比べ ~地球型惑星~

図3 地球と火星、月との比較

図3 地球と火星、月との比較

表1 惑星の大きさ(地球型)
半径(Km) 直径(Km) 月との差(月) 手の分度器
1,738 3,476 1 指1/4本
水星 2,440 4,880 1.4 指1/4本
金星 6,052 12,104 3.5 指1本
地球 6,378 12,756 3.7 指1本
火星 3,397 6,794 2.0 指半分
天文年鑑2003より

上の表は、水星から火星までの4つの惑星の半径、直径、月との比、月まで持ってきたときに見える大きさを手の分度器で示したものです。

左の図は、地球型惑星の代表として、地球、火星と月の大きさを図にしてみました。

これら4つの惑星は、主に鉄と岩石で構成されていて、地球と同スケールの大きさ、岩石でできた地表を持つことから、地球型惑星(The terrestrial planets)と呼ばれているのはご存知のとおりです。

地球型惑星という名前のとおり、地球がこの中では一番大きく、月4個弱。アポロ宇宙船の乗組員は、地球が指1本くらいの大きさに見える距離まで行ってきたわけです。

地球よりちょっと小さめの金星は月3個半。火星は月2個分、地球の半分くらいです。水星と月は、大きさがだいたい同じですね。

これら、地球型の惑星は、月の距離まで持ってくると、指1本程度か、若干小さめの大きさに見えることになります。

地球は大きく思えても、月まで離れれば指1本ほどになってしまうんですね。

大きさ比べ ~木星型惑星~

図4 木星と土星、月との比較<br/>下のものさし1目盛りが月の大きさ<br/>写真:NASA/JPL-Caltech

図4 木星と土星、月との比較
下のものさし1目盛りが月の大きさ
写真:NASA/JPL-Caltech

表2 惑星の大きさ(木星型)
半径(Km) 直径(Km) 月との差(月) 手の分度器
1,738 3,476 1 指1/4本
木星 71,492 142,984 41.1 拳2つ
土星 60,268 120,536 34.7 拳2つ
土星(輪) 136,800 273,600 78.7 拳4つ
天王星 25,559 51,118 14.7 指4本
海王星 24,764 49,528 14.2 指4本
天文年鑑2003より

続いて木星型惑星(The Jovian Planets)です。

木星型惑星は、主に水素やヘリウムで構成されているので、硬い表面というものはありません。

構成物は太陽など恒星とほぼ同じで、もし、木星があと10倍ほど重ければ、2つ目の太陽になった、などと言われていますね。

地球型の表と見比べてもらえば分かりますが、これらは地球型に比べればだいぶ大きく、地球型の10倍のスケールで、月との差もだいぶ大きくなっています。

木星は月40個、土星は輪を含めると月が80個並ぶという巨大さです。

手の分度器では、木星が拳2つ、輪を含めた土星は、なんと拳4個を並べなければなりません。

そんな大きな星たちが、地球から見ると月よりもずっと小さくしか見えない、ということは、月よりもずっと遠くにあるから、ということに他なりません。

こうやって調べてみると、木星や土星がいかに大きいのか、私自身が改めて実感しました。

大きさ比べ ~冥王星、太陽~

表3 冥王星、太陽の大きさ
半径(Km) 直径(Km) 月との差(月) 手の分度器
1,738 3,476 1 指1/4本
冥王星 1,195 2,390 0.7 指1/4本
太陽 696,000 1,392,000 400.5
天文年鑑2003より

最後に、おまけで冥王星、惑星ではありませんが太陽とも比べてみましょう。

冥王星は準惑星の代表の星、準惑星の中では大きい星です。大きいとは言っても、直径は月の3分の2しかありません。月のところに持ってくると丸くは見えるでしょうが、表面の様子を見るのは難しそう。これでは、惑星の肩書きをはずそう、ということになってもしかないかも知れませんね。

太陽は、大きいのは当たり前なんですが、特筆すべきは、もし月のところまで持ってきたら、地球も太陽に飲み込まれてしまうということです。

太陽の半径は、月の軌道半径の倍近くあり、月に太陽中心を置くと、地球は太陽の中心と表面の半分の場所にあることになります。あっという間に全部溶けてしまいますね。

土星を持ってきました

図5 土星を月の距離まで持ってくると<br />写真:NASA/JPL-Caltech

図5 土星を月の距離まで持ってくると
写真:NASA/JPL-Caltech

ここで合成写真を1枚。月の距離まで土星を持ってきてみました。

オリオン座、分かりますか? オリオンの足元に、巨大な土星があります。

土星を月の距離まで持ってくれば、角度で40度弱、手の分度器で拳4つです。

空にこんな大きな土星が浮かんでいたら、それはそれは見事な眺めでしょうね。