パルディ天球図より、こと座 Ignace Gaston Pardies, Wikimedia Commons

惑星の影

このコンテンツを公開して10年以上経ち、日本でもいろいろな日食が起こりました。

日食いろいろ

2009年7月21日の皆既日食。奄美大島などから(雲越しに)見ることができたようです。私は、土砂降りで日食どころか太陽も見えず、その雨の中500人も集まった、日食イベントの参加者の顔しか見ませんでした。


2012年5月21日 千葉での金環日食の様子

2012年5月21日には、日本の太平洋側をずーっとなめて行く、金環日食が起こりました。東京、名古屋、大阪といった人口密集地でも観測ができたようです。

私は、上のビデオを撮りながら、テレビの中継も見ていました。アイドルが日食を見ている様子を中継していて、星とかに興味のなさそうなアイドルが、日食を見てどんな反応をするだろう、と、興味津々で観察していたのですが、一番の収穫は、アイドルでも、日食グラスを使うと口がパカッと開くのだなあ、というところ。双眼鏡などでも、たいていの人は口がパカッと開きます1。皆さんも気をつけましょう(笑)

その2週間後、金星による金環食、太陽面通過が起こりました。千葉ではこの日、天気が悪く、残念ながら見ることができませんでした。次は100年近く後なので、今、生きている人は、金星の太陽面通過を見るのは難しいでしょう。

同じく、水星による金環食、太陽面通過は2032年11月に見られます。こちらは、金星に比べればそう遠くもないので、見られる人が多いことでしょう。

この先、日本から見られる日食は、2023年4月20日に、九州南部から太平洋側沿岸をギリギリで通っていく日食があるくらい、そのあとは2030年の金環日食まで、日食は見られません。寂しい期間となりそうです。

その金環日食は、2030年6月1日に北海道で見られ(2012年の1サロス後の金環日食です)、その5年後、2035年には北陸から北関東にかけて皆既日食が見られます。ちょっと頑張って長生きしてみましょう。

日食と月の距離

図1 皆既日食と金環日食

図1 皆既日食と金環日食

さて、日食は太陽と月が重なると起こります。ぴったり重なった日食には、金環食、皆既食の2種類があり(図1) 皆既食は、太陽が全部隠されるもの、金環食は、月の周りに太陽がはみ出して、金でできた指輪のように見えるものです。この2つの現象は、月の見かけの大きさの違いで起こる、というのもご存知のとおりです。

見かけの大きさの変化とは、つまりは月と地球との距離が変化している、ということです。最近は、スーパームーンなる言葉も一般的になってきたようで2、月の見える大きさが変わる、ということも、ずいぶん知られてきたようです3

月の軌道は結構な楕円で、地球に近づくと35万km、離れると40万kmくらい。そのために、月の見かけの大きさが変化します。角度では約29秒から約34秒、100円玉と500円玉ほどの違いです。両方の硬貨を持って、比べてみてください。

そんな、けっこうな違いでも、月は空にあって比べるものがなく、違いに気づく人はあまりいません。そんな月に、たまに比べる相手が近づきます。太陽です。

月と太陽が並んだ時、月が地球に近く、大きく見えているときは、太陽はすべて隠されて皆既食となり、地球から離れて、月が小さく見えるときは、太陽ははみ出して、金環食になるのです。

日食と影の長さ

図2 影の長さ

図2 影の長さ

ただ、月の見かけの大きさの違いが、皆既と金環、二つの日食の原因です、と言い切るのは、ちょっと説明不足。仮に月が、もっと地球に近いところを回っていれば、皆既日食しか起こりませんし、ずっと離れていれば、金環日食しか起こりません。極端な話、水星や金星の太陽面通過も、水星、金星による金環日食です。

もう一つの原因は、月が作る影の長さが、地球と月との距離と絶妙に同じくらい、ということ。これはまったくの偶然ですが、月の影の長さ、というのは、地球-月間の距離と、ほとんど同じ、どちらもだいたい38万kmくらい。宇宙の距離感覚では、もうまったく同じ、と言ってもいいくらいです。

図3 本影と半影

図3 本影と半影

今、月の影、と簡単に使っていますが、ここで言う月の影とは「本影」を指します。本影というのは、光源が別のものに完全に隠され、見えない部分です。それに対し、一部が隠される部分のことを「半影」といいます。日食で言えば、皆既食を見ることができる場所は本影の中、部分日食は半影の中、というわけです。

本影は、太陽を全部隠せる場所なので、太陽と太陽を隠すものの大きさが同じに見えるところまで続き、それよりも先は、太陽の一部は隠せても、離れれば離れるほど周りがはみ出してしまいます。中央部分が隠された部分食、いわゆる金環、になるわけです。

自分の影の長さよりも近くなったり遠くなったりしながら、月は地球の周りを回ります。太陽、月、地球と一直線に並ぶたび、影が届くか届かないかで、皆既食、金環食と、私たちはいろいろな日食を楽しむことができるわけです。

地球の影の長さは?

このサイトではよくある構成ですが、ここまではまえ振り4。ここからが本題です。

月の影は38万Kmくらいと書きました。ところで、日食の反対で、地球の影に月が入る、月食という現象もあります。

その月食、地球の影に月が入るために起こる、わけですから、地球の影は月の軌道よりも遠くまで伸びていることが分かります。月は地球の4分の1の大きさで、38万kmの影を持つのだから、地球の影はその4倍、だいたい150万kmくらいまでは伸びている、という計算です。

月軌道のあたりでの地球の影の直径は、約9000km。直径約3500kmの月をすっぽり隠してしまえます。残念ながら、金環月食、というのは起こりません。

他の惑星たちの影の長さは?

そこで思ったのが、他の惑星の影はどれくらいの長さなのだろう、どの惑星が一番長い影を持っているんだろう、ということです。

誰か計算していないかとネットで検索してみましたが、惑星の影の長さを計算するようなヒマな人はいないようです。アシモフが生きていれば、科学エッセイの中で計算したかもしれませんが5。もう30年になりますね・・・という話はさておき。

惑星の作る影の長さは、2つの値によって決まります。太陽-惑星間の距離と、惑星の大きさ(直径)です。

本影は惑星によって太陽が隠れる部分ですから、太陽に近いと当然太陽が大きく見え、惑星によって全部隠せる距離は短くなります。

もう一つ、惑星の大きさはいいでしょう。惑星が大きいほうが太陽を隠せる距離が長くなりそうです。

で、各惑星の影の長さを求めたのが以下の表です。さて、誰が一番長い影を持っているのでしょうか。

表1 各天体の影の長さ
天体名 影の長さ
37万8000km
水星 20万9000km
金星 94万2000km
地球 139万5000km
火星 120万3000km
木星 9239万2000km
土星 1億2980万8000km
天王星 1億1454万0000km
海王星 1億6586万1000km
冥王星 807万6000km

皆さんの予想は当たりましたか? わたしの予想では、土星あたりが一番かな? と思っていたのですが、本影の長さが一番長いのは海王星、という計算結果が出ました。その距離1億6千万km以上! 地球と太陽との距離よりも長いのです。続いて、土星、天王星と続き、太陽系で一番大きな木星は、太陽に近いのが災いして、残念ながら影の長さは4位となりました。それでも9千万km、太陽と金星との距離くらいもあります。

火星までの太陽に近い4つの惑星は、それらよりもだいたい2桁小さな影の長さです。もともと大きさが小さいのと、太陽に近い相乗効果で、影の長さが短くなっています。その中で一番長いのは地球です。地球型惑星、の、代表の地位を守りました(?) 次が火星。大きさは金星の半分しかありませんが、太陽からの距離は金星の2.5倍あるため、影も長くなりました。一番短いのは水星です。惑星の中で一番小さいですし、太陽に一番近いので、なんと月よりも影の長さが短くなっています。

さて、惑星の中で一番小さい、といえば、準惑星の冥王星です。参考として計算結果を載せておきました。

冥王星は月よりも小さな天体ですが、太陽から離れたところを回っているので、影の距離はなんと800万km、固体でできた惑星の中では一番大きい、という結果が出ました。ほらみろ! 惑星の仲間に戻せ! と、アメリカの科学者さんたちが勢いづきそうですが、これはあくまでも太陽から遠い、ということから求まる結果です。もし、冥王星の距離に地球を持っていけば、木星の半分、4千万km以上の影を持つことになり、逆に、いかに冥王星が小さいか、ということがこのことからもわかります。

惑星の影と太陽系外惑星

連星をめぐる系外惑星 kepler-16bの想像図

連星をめぐる系外惑星 kepler-16bの想像図

Where the Sun Sets Twice (Artist Concept)
NASA/JPL-Caltech

ところで、本影の長さを越えてしまった後、半影はどこまで伸びているのでしょうか。観測できるかどうか、ということは別にして、答えは、どこまでも伸びている、です。

先ほど「水星や金星の太陽面通過は金環食」と書きました。水星も金星も、本影は地球に届くことはありませんが、肉眼では見えなくとも望遠鏡を使えば、水星や金星が太陽の前を通っていくのが分かります。

この、恒星の前を惑星が通過していく、いわば金環食を利用して、太陽系外の惑星を探すのが「トランジット法」と呼ばれる手法です。恒星が、その周りを回る惑星に隠され、明るさが少し暗くなります。規則正しく(惑星が恒星の周りを回っていれば、規則ただしいですね)暗くなることで、惑星が回っていることが分かるわけです。

系外惑星の探査をするために打ち上げられたケプラーやTESSという人工衛星たちも、トランジット法で観測をしています。ケプラーは、1000個以上の惑星と、4000個以上の惑星候補を発見。何光年も離れた惑星の存在すら分かってしまう、やはり、「影」の影響力は大きいようですね。

  1. たぶん、目と腕に神経が集中して、しかも上を見上げるので、口がパカッと開いてしまうのでしょう
  2. このコンテンツを公開した2010年には、私も知りませんでした
  3. こういうキャッチーな言葉で、そうとは気づかせずに教育普及する、というのが理想的。難しいですが
  4. これ実は、星のこと管理人のプラネタリウム番組構成です。導入で直近の天文現象などの話題を紹介し、星座解説を挟んで、発展的な内容を紹介する、という。前半星座解説、後半テーマ解説だと、飽きちゃうのです(笑)
  5. 別に、アシモフがヒマ人だ、と、言っているわけではありません
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