距離指数と分光視差
年周視差や永年視差を使った星の距離を直接求める方法は、現在の技術でも数千光年が限界です。そうなると、別の方法で距離を決定する必要があります。
距離指数
ここで、星の明るさについて考えてみます。星には、いろいろな明るさがありますが、私たちが普段見ているのは、星の本当の明るさではありません。街燈が、近づくにつれて明るく見えるように、星も、遠いものは暗く、近いものは明るく見えます。なので、星の明るさを比較する場合、一定の距離にあるものと仮定し、それを「絶対等級」と呼びます。
絶対等級を計算するには、星までの距離が分からないといけません。逆に、絶対等級が分かれば、その天体までの距離が分かることになります。
星の明るさのページで、見かけの等級と距離から、絶対等級を求める式を紹介しました。
という式ですが、これを距離を求める形に変形します。
見かけの等級から絶対等級を引くことで、その天体までの距離を求めることができます。この\((m-M)\)を、「距離指数」と呼び、この式は、直接距離が求められない、数千光年以上離れた天体までの距離を得るためによく使われる式です。
分光視差
とはいうものの、そもそも絶対等級が求まらなければ、この式を使うこともできません。距離の分からない天体の絶対等級を求めるには、距離とは関係がない天体の性質を利用します。
今、星の明るさから距離を求めようとしていますが、星から届くものは光だけです。星を眺めて気がつくのは、いろいろな明るさ、そしていろいろな色の星があるということ。一般的な恒星の絶対等級を求めるヒントとして、星の色、正確にはスペクトル型を使います。
距離を直接求めることができる星たちの研究から、恒星のスペクトルと絶対等級には一定の関係があることが分かりました。それを基にして作られたのがHR図、乱暴に言えば、同じ色の星なら絶対等級も同じくらいになる、という関係です。
星のスペクトルを調べることで、その星の絶対等級が分かり、見かけの明るさとの差、距離指数を使って、その星までの距離を求めることができます。この方法で求めた距離を年周視差に換算した値を、スペクトルを使った距離決定なので、「分光視差」と呼びます。この方法は、ひとつひとつの星のスペクトルを得ることができれば距離指数を求めることができますから、比較的遠い恒星の距離も求めることができます。
ケフェイドと超新星
分光視差は、恒星の色と明るさの関係を利用して距離を求めましたが、このほかにも、距離指数を用いた距離決定に使える天体があります。
ケフェウス座デルタ星は、ケフェイドと呼ばれる脈動変光星の代表で、直径が変化することで明るさが変わりますが、その変光周期と絶対等級との間に関係があることが知られています。ケフェイドの変光周期を調べれば、そのケフェイドの絶対等級が、そしてそこまでの距離もわかるというわけです。ケフェイドを使って距離が求まった有名な天体がアンドロメダ座にあるアンドロメダ銀河です。ケフェイドは、数千万光年先の銀河でも発見されていますので、近距離の銀河の距離を求めることができます。
同じように、連星になっている白色矮星が爆発して起こる超新星も、最大光度からの明るさの変化と絶対等級に関係があります。このタイプの超新星は100億光年先の銀河でも発見されているので、はるかかなたの銀河までの距離も求めることができます。
こうして、直接距離を求めることができない天体も、距離指数を用いることで距離を決定することができるのです。
この、天体の明るさ、距離指数を用いた距離決定は、ほぼ、現在観測できる宇宙の全域、はるか彼方の天体までも求めることができますが、ひとつ注意しなくてはならないのは、星や銀河からの光が途中の星間物質に吸収・散乱されて、暗くなることです。これを「星間吸収」と呼びますが、遠い天体ほどこの影響は大きいため、実際に距離指数を使うときには、星間吸収の影響を含めて計算されています。
距離はしご
私たちの肉眼では測ることができない星までの距離。それを求めるには、いろいろな方法がありました。距離が分かっている天体の観測から性質を調べ、距離とかかわる性質を距離を求めることに使う、ということを繰り返して、だんだんと遠くの天体までの距離を決定していきます。はしごを足していくように調べているところから、「宇宙の距離はしご」と呼んでいます。
この方法は、はしごのどこかに誤差が入ると、そこから先の距離がすべて違ってきてしまいます。ケフェイドに種類があるということが知られていなかった時代に求められたアンドロメダ銀河までの距離は、現在の半分、90万光年でした。
天体までの距離は大変重要な量のひとつですから、現在も正確な距離を求める研究が進められています。
[天体物理学入門 P58 P226-230]