パルディ天球図 より、こと座 Ignace Gaston Pardies, Wikimedia Commons

77万年後 ~ミザールとアリオト~

ミザール、アリオト、これらは北斗七星の星の2つです。

北斗七星

北斗七星

ミザールは、柄の端から2つめの星、アリオトは3つめの星。もともとお隣さんですが、今から77万年後、双眼鏡で見ないと1つに見えてしまうほど、くっついてしまいます。

現在でも、ミザールはアルコルという星と二重星です。このふたつは、お互いの周りを回る「連星」なのか、偶然重なって見える「重星」なのか、まだはっきりと決められていないのですが、目試しの星としても知られています。昔、アラビアでは、この星がふたつに見えるかどうかで目の検査をしたというのです。

脱線しますが、視力検査でいう「1.0」とか「0.5」という数字、これは、角度の分の逆数なんだそう。なので、視力1.0の人は、角度の1分まで、0.5の人は、角度の2分まで、細かいところを見分けられるということです。ミザールとアルコルの場合、角度で11分ほど離れています。視力の定義から、これが見分けられれば視力0.1以上、ということになるのですが、実際に見てみると、見分けるのはなかなか難しい。

ミザールは2等星、アルコルは4等星で、都会の空ではそもそもアルコルが見えない、ということもありますし、大気のゆれで星は瞬きますから、現在の日本では視力検査に使うのは難しそうです。空が暗くて空気も澄んでいたであろう、昔のアラビアならではの方法でしょうか。

日本では、「四十ぐれ」と呼んでいるところもあったそうです。40を過ぎると、そろそろこの星を見分けられなくなる、というのですが、見えないのは歳のせいではない、と強く信じましょう。

おなじ肉眼二重星では、さそり座ミューという星も知られます。さそりのしっぽの中ほどにある3等星ですが、2つの星が角度の6分ほど離れています。こちらが見分けられれば視力は0.2以上ですね。さそり座はあまり高く昇りませんから、2つの星が競って瞬いているようにみえるところから、すもうとりぼし、けんかぼし、などと呼んでいる地方もあるそうです。

そんな肉眼二重星にまたひとつ、見ごたえのあるものが加わります。ミザールとアリオトです。

白い二重星

77万年後 ミザールとアリオトの接近

77万年後 ミザールとアリオトの接近

このふたつの星は、おおぐま座星流という、宇宙空間を同じ方向に移動しているグループの一員です。ヒアデスやプレアデスなどと同じ、星のグループですが、星団というには星がばらけてしまっているので、星団とは呼ばれていません。グループで同じ方向に移動していますから、地球から見てもあまり離れないのですが、ミザールとアリオトは、2回、大きな接近をします。

1回目は今から86万年前、ちょうどヒアデスが『秋』の空に見えていた頃、現在の北斗七星のすぐ下で、角度で0.6度(=角度で36分)まで近づきました。どちらも3等星で、ちょうどプレアデス・すばるの星の明るさ、星ひとつづつの間隔くらいです。この頃の、太陽系までの距離は、ミザールが105光年、アリオトが122光年。

その後、太陽系に近づいていきますが、2星の間は離れていき、現在は角度で4度ほどの間隔です。

北斗七星の隣り合う星の間隔は、メラクとフェクダの間だけ、角度の7度でちょっと長いのですが、それ以外は約5度づつ離れていますので、空のものさしになりますね。

ミザールとアリオトは、今後40万年後くらいまではこの間隔で移動していきます。その後、2星の間隔は短くなっていき、77万3千年後、角度の9分まで接近します。これが見分けられれば、視力は0.1以上です。

このとき、ミザールは2.0等級、アリオトは1.1等級、ヘルクレス座のお尻の辺りにありますから、空高く見ることができるでしょう。例によって、歳差円が近くを通っていますから、北極星として輝くこともありそうです。もし、ミザールとアルコルが連星なら、3つの星がくっついて見えるでしょう。もう少し詳しく視力検査ができるかもしれません。

77万年後、この星を使って視力検査をするのは、誰でしょうか。