パルディ天球図 より、こと座 Ignace Gaston Pardies, Wikimedia Commons

太陽の目的地

星座を作る星、恒星と言っても、天に張り付いているわけではなく、宇宙空間を移動していきます。

それを聞いて思うのは「ほかの星が動くのなら、太陽は動かないのだろうか」ということ。「空の星が動いて、太陽は動かない」のでは天動説に逆戻り、そんなことはない、ということが、直感的に分かると思います。実際、太陽は惑星その他太陽系の構成物すべてを連れて、宇宙空間を移動しています。この太陽の動き「どちらに向かって移動しているのか」の研究も、「恒星の動き」から行われています。

私たちも太陽系の一員ですから、太陽と一緒に動いています。動いているものの上で、そのものの動きを知るのはとても難しい。秒速約400mで地球が自転していることを、私たちは気がつきません。

どうして地球が自転しているのかが分かるのかと言うと、周りの風景が変わっていくから。歩いたり走ったり、自転車や車で移動をすれば、周りの風景は後ろに動いていくように見える。それと同じように、地球の周りの風景「星空」が1日1回回って見えるから、自転をしているのだ、ということが分かるわけです。1

太陽が動いていく方向も、歩いたり車で移動したりする風景の動きと同じ、地球の周りの風景「星空」を調べることで分かるのです。

太陽向点

図1 太陽向点

図1 太陽向点

太陽系が動いていく方向を最初に決めたのは、天王星を発見した、ウィリアム・ハーシェルです。ハーシェルは全天の星を詳しく観測した人ですが、太陽系に近い14個の星の固有運動が、はと座に向かう傾向があることに気がつきました。そして、これは太陽がはと座の反対、ヘルクレス座のほうへ向っているために動いて見えるのだ、と、正しく考えました。

現在でも、たくさんの星の動きを調べ、その方向の研究が進められていますが、基本的にはハーシェルの決めた位置と変わっていません。太陽は、ヘルクレスの左手の辺り、赤径18h赤緯+25°付近に向かって毎秒約15kmで進んでいて、これを「太陽向点」と呼んでいます。2

ただ、宇宙空間を動いているのは太陽だけではありません。動きを調べるために使った星たちもそれぞれが運動していますから、太陽向点も、選んだ星によって若干の違いが出てくるようです。これは、どれが正しい、ということではなくて、その星たちとの相対速度がそれくらい、ということ。相手がいてはじめて決まるのが速度、なのですね。星の動きの平均から太陽向点を決める方法や、固有運動の中で、一番多く見られる動きから太陽向点を決める方法など、決定方法も研究されています。

太陽向点の反対側、太陽背点は、赤径6h、赤緯-25°付近。星座では、オリオンの足元、うさぎ座とはと座の中間付近です。

図2 太陽背点

図2 太陽背点

現在から前後200万年の恒星の動きを見てみると、確かに太陽向点、『夏』の星空から星が現れ、空を横切って『冬』の星空、オリオン座の下の辺りへと消えていくものが多いです。星々も無秩序な運動をしていますから、必ず太陽向点から現れるわけではありませんが、こういった動きをする星が多く見られます。

太陽の運動と個々の星の運動が合わさって、地球から見た恒星の「固有運動」となって見えるわけです。

  1. もちろん、これが地球の自転の証拠にはなりません
  2. 最近の研究では、やや異なる値が出ているようですが、このページではこの数値を紹介します。