パルディ天球図 より、こと座 Ignace Gaston Pardies, Wikimedia Commons

その3~時計を使った方位の求め方~

「方位を求めよう」第3回は、道具を使って方位を求めるその2、 時計を使って方位を求めてみましょう。

図1 懐中時計(のつもり)

図1 懐中時計(のつもり)

時計を使って方位を求める、といっても、時間を測ることから求めるわけではありません。時計の短針と、太陽の位置の関係で求めるというものです。ですから、太陽が出ていない夜間や、曇り、雨の日はつかえません。

今回は前回の日時計ではなく、普段普通に使っている、時刻を測る時計です。ただし、アナログ時計で、針がいわゆる普通回転の腕時計、懐中時計など、自由に持ち運べて動かせるものでないとダメです(図1)

この方法も、手の分度器同様、有名ですが、誰が考案したのか、私は不勉強で知りません。どなたかご存知の方、お知らせください。

時計と太陽から方向を求めてみる

図2 南を求める

図2 南を求める

図1の時計、時刻は10時8分くらい、時計屋さんに飾ってある時計のデフォルトの針配置ですね。さて、時計と太陽の位置から方角を求める方法ですが、とても簡単(図2)

  1. 時計を水平に構える
  2. 『短針』を太陽の方向へ向ける
  3. 『短針』と文字盤の『12』で作る角を2等分する線が、南北方角になる。

図1、2では、短針は『10』を過ぎたあたりですが、それを太陽のほうへ向け、短針と『12』で作る角を2等分すると、『11』のあたりが、南の方向となるわけです。

実際に野外で求めてみたのが図3、撮影地を地図で確認したのが図4です。地図は分かりやすいように180度回転させてあります。普通は上が北ですが、この地図は南です。

図3 現地での求め方 ロケ地:マザー 牧場

図3 現地での求め方 ロケ地:マザー 牧場

図4 地図で確認 地図:プロアトラスW2

図4 地図で確認 地図:プロアトラスW2

この写真の撮影地はマザー牧場、図4の地図の『★』印のところから『↑』向きに、時刻は10時28分に撮りました。はたして、この写真から求めた「南」は実際の南の方向となっているでしょうか?

時計を水平にして、短針を太陽に向け、短針と『12』で作る角の二等分線が南の方向となるはずです。図3と図4を比較してみると、確かに南の方角が求まっているように見えると思います。

他の時刻では?

今、10時台を調べてみましたが、他の時刻でも南の方角が求まるのでしょうか?

図5 3時25分

図5 3時25分

図6 6時42分

図6 6時42分

上の図5は、3時25分、図6は、6時42分で調べています。

図5の3時25分というと、太陽は南西の空に見えています。イメージしてみてください。太陽に短針を合わせ、『12』との間をとると、確かに南です。

6時42分、夏の間はこの時刻、朝と夕方ともに太陽が見えています。

夏の朝、ちょうどラジオ体操が終わった頃には、太陽は東の空、もうだいぶ高くまで昇っています。夕方の6時42分には、まもなく日が沈もうかというころ、北西の空、だいぶ太陽が低くなっているころです。

朝は問題なく南が求まりますが、夕方の場合は、『12』と短針が作る角のとがったほう、鋭角を使うと、南が求まらずに北が求まってしまいます。午前6時より前、午後6時よりも後の時間帯は、『12』と短針が作る角の鋭角を使うと、南が求まらずに北が求まってしまうことになります。もちろん、反対側の鈍角は南を指しています。

それを気をつけなければなりませんが、どうやらこの方法、どの時間帯でもほぼ南を求めることができるようです。

求まる理由は?

ではなぜこの方法で南を求めることができるのでしょうか?

今回の求め方の、短針を太陽のほうに向ける、ということ、それは時計を分度器として使って、太陽のいる方位を角度で測る、ということと考えられます。何かを測るためには基準となるものが必要ですが、それを文字盤の『12』に担ってもらいます。なぜ『12』なのかというと、短針が『12』の位置に来たとき、太陽もほぼ南の空、一番高いところにあるからでしょう。

南の方向を求めたいわけですから、その方向が一番単純に求まるとき、つまり、『12』と短針が重なり、太陽も南にある正午を基準として考えよう、ということだと思います。

太陽は、1日に1回、東から昇り、正午に南に来て、西に沈んでいきます。1日に1回転ですから、1時間あたり角度で15度、動きます。もうひとつの要素、時計の短針は、『12』を基準にして1日に2回転します。こちらは1日に2回転ですから、1時間あたり角度で30度、動くことになります。

もうお分かりですね? 正午、太陽が南にあるとき~南中しているときには、短針も『12』のところにあり、1時間ごとに、太陽は15度、短針は30度動きます。短針は太陽の倍の速さで回転していくので、太陽が出ているどの時刻でも、短針を太陽へ向ければ、南は、基準にした『12』と短針との半分の角度、中間にあることになるのです。

表1 計算上の太陽の南からの角度と、短針の『12』との角度
時刻 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
太陽 105 90 75 60 45 30 15 15 30 45 60 75 90 105
短針 210 180 150 120 90 60 30 30 60 90 120 150 180 210
手の分度器 右手 右手 右手 右手 右手 右手 右手   左手 左手 左手 左手 左手 左手 左手

ということは、アナログ時計でなくても、時刻と太陽の位置がわかれば、南の方角が分かることになります。

短針の代わりとなる分度器が必要ですが、それはもちろん手の分度器を使います。正午から1時間ごとに、親指立ての拳1個分ずつ、太陽を基準に数えていけばいいことになります。

たとえば8時のときは、右手親指の先を太陽の位置にあわせ、『8、9、10、11』と4つ分右に動かしていけば、4つ目の拳の小指のあたりがだいたいの南、と求まります。

ただし、このとき、絶対に太陽を直接見ないように気をつけてください。目を傷める恐れがあります。

その精度は?

最後に、その精度について考えてみます。

表2 計算上の太陽と、各季節の実際の太陽の、南からの角度(観測地:東京)
時刻10111213141516171819
計算の太陽105907560453015153045607590105
3月21日88796957412063049637483
6月21日11510799928268391960778896104112120
9月21日877867543714123553667686
12月21日5950382510621354757

上の表2は、先ほどの表1で求めた太陽と、実際の太陽の位置を、それぞれの季節の代表ということで、春分、至、秋分、冬至の4日間についてまとめたものです。こうやって見ると、計算とはだいぶずれていますね。計算通りには行かないことが分かります。

一番ずれているのは夏至のころですが、このころは、日の出、日の入り頃以外、日中はほとんど役に立たない状態です。他の季節ではだいたい10度から20度程度の誤差でしょうか。

このずれの大きな理由は、太陽の動きと、方位との関係によるものです。ここでそのずれの理由を書かねばならないところですが、だいぶ長くなっていますので、別ページとして作成する予定です。

まとめ

時計を使った角度の求め方、いかがだったでしょうか。

夏至の朝夕ころに気をつけなければならないこと、誤差が20度くらいで、精度があまりよくないことを知っていれば、役に立つ方法だといえるのではないかと思います。

精度が多少悪くても、太陽さえ出ていれば方位を求めることができるというのは、大きな魅力ですね。