38万年後 ~北十字星~
南十字星は、オリオン座と並んで、有名な星の並びのひとつでしょう。
南十字星
1等星が2つ、2等星と3等星がひとつずつ、かわいらしく夜空に架かります。南天にありますから、残念ながら日本のほとんどからは見ることはできません。沖縄では地平線ぎりぎりに昇ってきますが、やはり南半球に出かけて眺めるのがよいのでしょう。
北十字(はくちょう座)
これに対して、はくちょう座の星の並びを「北十字」とも呼びます。尻尾のデネブから、おなか→首→くちばしと星をまっすぐにつなぎ、おなかの星から横に翼の星をつないで白鳥の姿を描くわけですが、その白鳥の星の並びがちょうど十字に見えるところから、この呼び方があります。南十字星に比べると、星の明るさこそかないませんが、大きさ、形の美しさでは負けていないと思います。
それに、クリスマスの頃になると、夕方西の地平線にこの十字架が立ち、なかなか印象深い風景になります。地平線からまっすぐに立つ十字架、その頂点で輝くデネブ、実にうまくできているものだなあ、と感心してしまいます。
けれども、今回紹介するのは、その北十字ではありません。現在から38万年後、南十字星のような星の並びが、北の空にできあがるのです。
北十字星
38万5千年後 『秋』の空
上の図は、38万5千年後の『秋』の空。この頃、こと座のヴェガが太陽系に近づいていて、北の空、カシオペヤ座のあたりで全天一の明るさで光っていますが、そのすぐそばに注目すると、小さな十字架が見つかります。これこそがここでの「北十字星」 大きさも、横棒が少し傾いているところも、現在の南十字星によく似ています。
こと座のヴェガ(-0.7等級)と、ケフェウス座アルファ・アルデラミン(1.5等級)が横の棒、カシオペヤ座ガンマ・ツィー(2.1等級)と 同じくカシオペヤ座アルファ・シェダル(2.2等級)が縦の棒。1等星ひとつと、2等星がみっつですから、南十字星よりも明るさのバランスがいいくらいです。
星の色も、南十字星は縦棒の下の星がオレンジ、残りは白に対して、この北十字星は、縦棒の上の星がオレンジ、残りは白と、対称になっているのです。
ちょっと、できすぎな感じがします。が、できすぎなのは、これだけではないのです。
指極星としての北十字
南十字星には、南天への憧れ以外にも、とても重要な役割がありました。それは、「指極星」 方角を知る星だったのです。
現在の北の空には北極星がありますが、南の空には、南極星と呼べるような明るい星はありません。大航海時代に南半球に出かけた船乗りたちは、南十字星を使って方角を調べていた、といいます。縦のふたつの星を結んで、その間隔の4.5倍のばしたところが、天の南極、南の方角というわけです。
『北十字星』を使って、方角を知る
そして、今回紹介している「北十字星」も、指極星として使うことができるはず。というのは、南十字星と同じやりかたで、天の北極を探すことができるからです。
上の図を見てみると、シェダルからツィーへ縦に星をつないで、そのまま延ばしていくと、現在のこぐま座のしっぽ付近にぶつかります。つないだ星の間隔の約4倍。南十字星は4.5倍でしたが、探すのに使う星の並びも、のばしていく間隔までそっくりです。
歳差運動によって、天の北極は歳差円の上を移動しますから、4つの星が北十字星として輝く期間に、ここに天の北極が来ているとは限りませんが、歳差運動の1周期くらいは十字架に並んでいますから、1回は天の北極を調べることができるはずです。
大きさや形、星の明るさと色、そして、方角を知ることまでできる、南十字星とこの北十字星、とてもよく似ています。
もちろん、ただの偶然ですが、こんな星の並びを見つけることも、過去未来の星空を眺める楽しみのひとつです。