パルディ天球図 より、こと座 Ignace Gaston Pardies, Wikimedia Commons

125万年後 ~たて座デルタ~

たて座デルタ、あまりなじみのない星でしょう。

たて座デルタ

たて座デルタ

天文好きでも、知らない人も結構いるのでは? と思います。そもそも「たて座」なる星座がある、ということが知られていないでしょうし、そんなマイナー星座の固有名も付いていない星を言われても困ってしまいます。

たて座は、ヘヴェリウスという天文学者が作った、比較的新しい星座。当時、大英雄だった王様の盾を星座にしたものですが、この星座、いて座わし座の間、天の川の中にあり、星影がとても濃く見える場所にあることで知られています。そんな星の海の中にあるこの星、天文学者の間では、よく知られた星のひとつです。たて座デルタは、ずばり「たて座デルタ型」と呼ばれる変光星のグループの代表、恒星の内部構造を考える上で、とても重要なグループの代表なのです。

たて座デルタ型変光星

たて座デルタ型変光星は、30分間から6時間程度の周期で、ごくわずかに明るさが変化します。明るさの変化は0.3等以下で変光周期も早いので、変光する様子を観測するのは難しい。最近になって、ようやく詳しく調べられるようになりました。

大きさが大きくなったり小さくなったりするために明るさが変わる、脈動変光星というグループのひとつですが、それだけではなく、星が振動している「星震」のために、同じ星に何種類かの変光周期があり、その振動を詳しく調べることで、地震と同じように星の内部構造が分かると考えられています。私たちの太陽も、表面が5分周期で振動していて、その振動から太陽内部を考える「日震学」という研究が行われています1

たて座デルタ

たて座デルタ

さてそんな たて座デルタ、もちろん変光星ですから、約4時間40分の周期で0.2等級ほど明るさが変化しますが、現在は平均して4.75等級という明るさです。太陽系からの距離は約190光年、はるかかなたにあります。けれども、この星は現在もどんどんと太陽系に向ってきていて、現在から125万年後に太陽系に9光年まで接近、-2等級で『秋』の夜空を飾ります。

変光星いろいろ

現在はたて座にあるこの星、ゆっくりと『秋』の空へと移動していきます。今から97万年後には、太陽系から43光年、わし座の翼の先で1等級になり、星空の中での移動速度も上がってきます。113万年後には太陽系から20光年をきり、明るさもマイナス等級、そして125万年後に、太陽系から9光年、明るさも-1.8等級で、ペガスス座のあたりに輝きます。

たて座デルタとメンカリナンの接近

たて座デルタとメンカリナンの接近

ちょうどその頃、ぎょしゃ座ベータ・メンカリナンが同じような場所にあって-0.4等級という明るさ、2つの輝星が並ぶ様子は、静かな『秋』の星空ではものすごい存在感でしょう。

ちなみに、メンカリナンも変光星。こちらは「食変光星」と呼ばれるグループです。ふたつの星がお互いを回る「連星」を、横から(その軌道面方向から)見ることで、星同士が隠しあい、明るさが変化するもの。メンカリナンは「アルゴル型」と呼ばれるタイプです。

アルゴルはペルセウス座にある2等星、有名な「メドゥーサの首」のところにあります。食変光星として初めて発見されたものですが、このアルゴルも、今から700万年ほど前に、太陽系まで9光年のところまで接近していたそう。

長い期間の恒星の運動を調べていると、たくさんの星が太陽系のそばを通過していきますが、こうして、有名な星が思いがけずに接近するのを知るのは、面白いものです。

[The Cambridge encyclopedia of Stars P. 196]