87万年前 ~ヒアデス~
おうし座の顔のところに、「V」の形にならんだ星のかたまりがあります。ヒアデス星団と呼ばれる星の集団。散開星団です。
ヒアデスとプレアデス
すぐ近くのプレアデス星団=「すばる」に比べると星がバラバラで、あまり見栄えがしません。この星団は太陽系から約150光年、とても近い場所にあるために全体が大きく広がり、地味に見えてしまっているのです。もう少し遠ければ、ほかの散開星団のようにまとまって見えるでしょうし、もっと近ければ、今度は明るい星が集まっているように見えて、それはそれで見ごたえがありそうです。
ヒアデスの星たち、同じ星雲からできたと考えられていますから、星団全体が同じ向きに運動をしていきます。過去、未来でどのように見えるのでしょうか。
おうしの目の星、赤く輝くアルデバランはヒアデス星団 1の星ではなく、距離も65光年とヒアデスに比べればだいぶ近い星、たまたま重なっているだけなのですが、その動きも合わせて見てみましょう。
最接近
ヒアデスは、今から150万年ほど前には、現在のいるか座、こうま座の辺りにあって、距離は136光年、現在よりもすでに太陽系に近くなっています。一番明るい星が3等星、10度ほどの範囲に広がって、ぱらぱらと星が集まっているさまは、肉眼で楽しめそうです。
その後、太陽系に近づいてきて、87万年ほど前に太陽系に最接近しました。その距離は約81光年で現在の半分強、最輝星は2等星にまで明るくなりました。現在でも、主要な星たちは5度くらいの範囲に広がっていますが、87万年前には10度くらいの範囲、ペガススのおなかの中にすっぽりと入ってしまうくらいの範囲に、2等星が5個、3等星が10個、4等星が12個と集まっています。現在の空には、こういう場所はありません。強いて言えば、オリオン座のあたりや、さそり座のあたりなどでしょうか。なかなかの眺めになりそう。
縦に3つ並んでいる2等星は、現在のおうしの顔を作っている、γ、δ、ε星です。なんとなく、おうしの顔の「V」の形が見えていますね。
ヒアデスの中で一番明るく見えたのは、現在オリオン座にある「オリオン座ミュー」という星。87万年前には、現在のペルセウス座のあたりに0.8等級で見えていたはずです。この星はこの頃、太陽系から30光年ほどまで近づいていました。ヒアデス星団、数十光年の範囲に広がっています。
150万年前から現在まで、ヒアデスは天の川から少し離れたところを通っていきました。いるか座、こうま座から、ペガスス、うお、おひつじと、明るい星の少ない場所を通過していき、そういった場所にある星の集まりですので、かなり目立っていたはずです。肉眼でももちろん、オペラグラスなど、低倍率広視野の双眼鏡で見ると、見ごたえのある天体だったことでしょう。
ヒアデスとアルデバラン
ヒアデスその後
ヒアデスは、太陽系から遠ざかりながら東へと進み、現在の場所にやってきました。この後も、そのまま東へと進み続けますが、距離はさらに遠くなり、オリオンの左側、冬の天の川の中へと消えていきそうです。
100万年後には、現在のオリオンの顔の辺りにあり、距離は290光年、明るさは5等級、普通の双眼鏡で見るのにちょうどいい天体になっているでしょう。
アルデバラン
さて、おうしの目の星アルデバランですが、この星はヒアデスとはまったく別の動きをしていることが、上の図から分かります。ヒアデスが最接近していた87万年前には、現在の位置とは正反対の、ヘルクレス座とへびつかい座の間に2等星で見えていました。距離は108光年。
その後、太陽系にどんどんと近づいてきて、32万年前には、21光年のところまで接近、ケフェウス座のあたりで-1.5等級、現在のシリウスほどに輝きます。そのあとは、太陽系から離れつつ現在の場所へと移動し、ヒアデスと重なったタイミングで現在に到着。まったくの偶然で、おうしの顔を形作ることになったのです。
32万年前のアルデバランの位置、現在のケフェウス座のあたりは歳差円の上に乗っていますから、この頃、北極星になっていた可能性が高そうです。シリウスと同じ明るさの星が指極星となる空、文明があれば、航海や旅行には困らなかったでしょう。
専門の方にはお叱りをうけるでしょうが、晴れた夜ならば、いつでも同じ場所に燦然と輝くアルデバラン、その暖かい色ともあいまって「何かすばらしいものがあるに違いない」と、この星を目印に石器時代の人類がアフリカから北を目指したのでは? 2 などと夢想してしまいます。