パルディ天球図 より、こと座 Ignace Gaston Pardies, Wikimedia Commons

44万年前 ~カペラとアルデバラン~

ぎょしゃ座カペラおうし座アルデバラン。晩秋の夕空で冬の訪れを告げる1等星たちです。

カペラとアルデバラン

カペラとアルデバラン

どちらも暖色系の1等星、この星たちが木枯らしの中瞬くころ、関東では平地でも紅葉が進み、そんな風景を見ると、私は落ち行く枯葉と結びつけてしまいます。アルデバランは「後に続くもの」という意味、何の後かといえば、プレアデス星団=「すばる」のこと。日本でも、「すばるのアトボシ」という呼び方もあったそう。すばるの細かな輝きは、朝の霜か、やがて降る雪の前触れか。

それに対してカペラは、「雌の小ヤギ」という意味、カペラのある星座、ぎょしゃが抱きかかえているヤギを表しています。1等星の中では一番北にある星です。

現在でも、この2星は角度で30度ほど、比較的近いところで輝いていますが、今から今から44万年前頃には、角度で2度弱まで接近していました。

ちょうど、現在のヴェガがある辺り、『夏』の天の川の西の岸辺に二つ並んでいたのです。黄色いカペラが-0.1等級、39光年、オレンジのアルデバランは-0.7等級、30光年。歳差運動の影響でどの季節に見えていたかは分かりませんが、もし夏の空に見えていれば暖色系の肉眼二重星ですから、「この星たちが夜輝くからますます暑くなるのだ」などと言われたかもしれません。

恒星データ

Hipparcos
番号
バイ
エル
符号
赤径赤緯固有名
カタログ名
意味アルマゲスト名実視
等級
絶対
等級
スペク
トル
距離
(光年)
21421α
TAU
4h35.9m 16゚30.6'アルデバラン後につづくもの南の目の上で赤いヒアデスの輝星0.87-0.63K5III65.1
24608α
AUR
5h16.7m 45゚59.9'カペラ雌子山羊左肩で(カペラ)とよばれる星0.08-0.48M1:comp42.2

データ出典:
バイエル符号・等級・スペクトル・距離:Hipparcos星表 絶対等級:独自計算 固有名・意味:星座の神話、IAU アルマゲスト名:アルマゲスト

44万年前 『夏』の空

44万年前 『夏』の空

44万年前でも、デネブは現在と位置はほとんど変わらず「はくちょう」のしっぽの星。太陽系から3000光年くらい、とても遠くにあるためです。現在のわし座には、みなみのうおアルファ・フォーマルハウトが来ていて、今よりも一回り大きな「夏の大三角」というところです。現在の夏の大三角のひとつこと座アルファ・ヴェガは、ヘルクレス座へびつかい座の間、カペラ-アルデバランとフォーマルハウトとつないで、もうひとつの「夏の大三角」を作っています。

ちなみにアルタイルは、たて座とわし座の境界付近にあって、明るさは3.5等級、天の川の濃いところにありますから、ほとんど目立たなかったことでしょう。

カペラとアルデバラン

カペラとアルデバラン

44万年前に、角度の2度まで接近したカペラとアルデバラン、その後は急速に間隔を広げながら天の川に沿って北へ向います。どちらも、太陽系に向けて接近し、32万年前にアルデバランが21光年まで、24万年前にはカペラが28光年まで接近しました。アルデバランの最接近時の明るさは-1.5等級でシリウス並み、カペラは、-0.8等級でカノープス並み。

最接近時の2星は、歳差円の中、天の北極に近いところで輝きます。一晩中、シリウスやカノープスのような、とても明るい星を見ることができたでしょう。

明るい北極星の時代

このふたつの星は、どちらも歳差円を通過するのに10万年以上かかっていますから、少なくとも数回、北極星になっていたはず。10万年単位の恒星の固有運動に比べ、歳差運動は約2万6千年で一周してしまいますから、「いつ北極星になったか」は言えませんが、歳差円のそばにやってくれば、ほぼ間違いなく北極星になっていたことでしょう。

特に、44万年前、2星が最接近する前後の数万年間は、まさに歳差円上にあり「マイナス等級の星で作る肉眼二重星の北極星」という、なんとも贅沢な時代があったはずです。100万年前から100万年後までで、こんなに見事な北極星はありません。見てみたい、と思っても、どうにもならないことですが。

この時期は、ほかにも現在の北極星やはくちょう座アルファ・デネブ、へびつかい座の頭の星「ラスアルハグェ」 北斗七星の先端の「ドゥベ」最後の星「アルカイド」など、1等星、2等星の星たちが北極星となっていたでしょう。現在よりも、北極星は明るい星が多かったようです。

その代わりというのも変ですが、北斗七星やカシオペヤ座のようなきれいな星の並びはなく、その点では、今の空のほうが勝っています。やっぱり、現代に生まれてよかったのかも。

その後

20万年ほど前にカペラが歳差円から離れて、今度は南下を始めます。冬の天の川に沿って南に進み、20万年かけて、現在の位置にやってきました。最盛期はアルデバランのほうが明るかったのですが、現在では、カペラのほうがまた明るく見えます。このあとは、遠ざかる一方ですから明るくなることもなく、このまま、二つの星は南下をつづけ、オリオン座の中に消えていくでしょう。